7月1日に相続税の路線価が発表になり、4年連続増加し、バブル超えである、と、さもいいことであるような新聞記事が書かれています。もう、本当にどうもあきれ返って物がいえないです。

木造住宅が無価値になるという嘘

路線価には二つありますが、いずれも実質取引価格よりも実感として高すぎる印象があります。固定資産税評価額に使われる路線価は、この相続税のものと違うわけですが、それにしても高いです。

そして、今般福島の被災地では、固定資産税の税額減免措置が終わったそうです。実際には津波で更地になったあと放射能騒ぎもあったり、まだ取り壊しもすんでいない建物があったりと、実際には使えない土地なのに、それなりの税金がかかるのです。

ことにひきこもりにとって厄介なのは、築50年を超えたひきこもりの家の実家です。よく不動産の価値は木造住宅だと30年すると無価値になる、といいますが、実際にはまったくの嘘です。

固定資産税において、建築物の価値は再取得価格の2割が永遠に残ります。ですから、鉄筋コンクリートなどで作ってしまうとどれだけぼろぼろになっても結構な価値になりますしその税金がかかってきます。また木造住宅であっても、隙間風だらけのぼろ家であってもそれにそぐわない残存価値に対する税金がかかります。

固定資産税だけで年80万円!?

加えて土地に税金がかかります。小規模宅地の特例というのがあって、家が立っている敷地が100坪までなら税金も大幅減免されます。しかし、中途半端に都会で敷地だけ大きな家というものがあります。そうすると税金だけで年間80万円とか、地方都市のアパートの家賃と比べたら大変な金額になります。

ひきこもりは、親の年金で、という話がありますが、年間80万円というのは国民年金の平均受給額より上です。財産を取り崩して取り崩して、という世界です。それでも親の年金があるうちはまだなんとか大きな家にひきこもっていられるのですが、もう、収入も貯金も底をついている中で税金が借金となって襲いかかってくるのです。

売ればいいじゃないか、と思う方もいるでしょう。日本はそんなにいい景気ではないんですね。実際には、それだけの固定資産税評価額があるような土地は、そもそも家が立っている状態では売れません。

切れない土地。庭が要らない人々

ただでさえ借金があるひきこもりの人にお金を貸す人もなかなか現れませんし、手詰まりになってしまいます。売るにしても、たとえばそういう家は120坪ぐらいあったりするのですが、地域により住民協定があり、50坪以下には土地を切れない、という取り決めがあります。これは民法よりも強く、しかも、集合住宅も作れない、というケースがほとんどなのですね。

これはバブル期に開発が進んだニュータウンなどでよくみられることなのですが、住宅街の景観を維持するために、庭つきの大きな家に住みましょう、ということなんです。しかし、最近ではガーデニングと言う言葉も聞かれなくなってきました。きれいに庭を手入れする人も減りました。当たり前です。どこのうちも共働きですから。

そうすると120坪の家は60坪二つに切るしかないのです。ですが、最近の家は30坪もあればガレージつきの家が建つので、60坪なんかいらないよ、っていう話になるんです。だから実際には60坪あっても30坪分ぐらいの値段でようやく売れるか売れないか、という話なんですね。それでも売るのは本当に大変です。だって買った人は、いらない30坪の庭の分の固定資産税も払わないといけないのですから。

1億円以上の家を売っても4000万円?

結果的に家は取り壊して更地で売らないといけない。土地の値段は路線価の半分もいかない。さらに取引手数料が3パーセントずつとか取られる。そのぐらい売価が安くなると買った利ざやはないでしょうから、そこでの収益にかかる住民税はかからないでしょうが、それでも「思ったような価値ではまったく売れなかった」ということになります。

ひきこもりに兄弟がいることは珍しくなく、たいていの場合そうした兄弟と言うのは世事に疎く、ひきこもりの救出方法も知らなかったりする結果として今があります。そうして、安くしか売れなかったのは、ひきこもりのせいであろう、みたいなことになってまたひと騒動起きることもあります。

結果として家を立ち退かなければならなかったとしても、もともと1億円以上あったはずの価値の家と土地が4000万円にもならなかったということになるのです。そんないんちきな路線価ありますか? 

路線価は、一応実勢売価に基づいて、ということになっています。しかし不動産屋さんに聞くとそれは、一番売れやすい大きさの、手近なところにあった物件とか、たまたま高値で売れた物件であって、それで全部売れるわけではないんですよ、ということです。

マンションに住みたがる東京人

ですから、30坪とかせいぜい40坪くらいまでが郊外では求められ、都心になると、地方の方には信じがたいかもしれませんが、敷地は15坪以下のものが、非常に人気です。坪単価が100万円超えていますから、土地代だけで2000万円するわけで、30坪とか40坪なんか買えません。建築費用も、都心だと小さな3階建てを注文住宅として建てると、3000万円は取られます。

都心は住民協定がなかったりしますから、大きな古い家が一軒なくなると、跡地に3軒4軒の分譲住宅が建ったり、集合住宅が建ちます。しかし、今は都心の一戸建ては本当に人気がなく、みんな高層マンションに住みたがります。

すっかりどうかしちゃっているわけです。ですから、都心だからと言っても土地が右から左に売れる、というわけでもないんですね。そして、その値段でまず売れることがない路線価によって税金が取られ、ひきこもりは追い詰められてしまうのです。

ひきこもりに罪はない

ひきこもり自体に罪はないのです。さまざまな事情でひきこもりになった、ならざるを得なかった、仕事をしなくてもすんでいたのです。もし仕事をしていないことで責められるのであれば、多くのお年よりは責められないといけない、という話になってしまいます。

ひきこもりが他人から責められる理由はひとつもないのです。しかし、税金は無職だろうが働くことができなかろうが、借金があろうが容赦なくやってきます。冷たい世の中です。固定資産税の路線価を下げたり、ということはなかなかできない、そのからくりはわかります。でも厳しい話なんですね。

このままだと日本人が、土地を棄て、国を棄ててしまうのではないか、とすらおもえてしまうのです。