たいへん残念なお知らせがあります。8050問題、7040問題、高齢ニート、ひきこもりにマジックワードはありません。マジックワードというのは、その状態にある人に、ある言葉を言うと、状況が一変して、元気になったり、その状態から抜け出せるようなことばです。

もちろん、私どもに限らず、誰かが、ある程度の期間寄り添うことによって、その人の状態を把握し、その人と信頼関係を築くことができ、かつその人が私どもの提案を聞くことができるような状況になれば有効な言葉は何種類もあります。ただ、何度も繰り返しになりますが、8050問題の人はみんなが同じ状態ではないのです。100人いれば100人原因も現状も未来も違うと言っても過言ではありません。

政府は100万世帯から130万世帯いると言われている、つまり、親子や同居家族など関係者だけで数百万人いるなかのわずか5000世帯を対象に聞き取りをしているとのことですが、正直、今回もそのこと自体にほとんど期待ができません。というのはこれまでもニートや引きこもりに関して調査は行ってきたものの、結果としてほとんどの人がそのまま高齢化したり、中高年離職が増えたことにより状況が悪化しているにも関わらず、対策が後手後手に回りすぎているからです。

典型的なのが公立学校におけるイジメ問題です。イジメ問題の解決のために現場が何をしたかと言えば、現実には苛烈ないじめがあったにも関わらず見て見ぬふりをし、学校としてなかったことにしていたという実態です。私が子供の頃にもイジメはたくさんあり、教科書をトイレに放り込まれたり、石をぶつけられたり、女の子の前でパンツ脱がされたり、といくらでもありましたが、大人は解決には無関心でした。

セクハラという言葉の前からセクハラはあり、犯罪としか言えないものもたくさんありましたが、男社会である日本ではうやむやにされてきました。国によっては激しい刑罰になるような事件でも、警察が被害届を受理しない、ということもいくらでもありました。女性には男性と同じ権利が認められていないことは、少なくとも日本人女性の多くが知っています。

村八分問題は、デジタル社会になってからはより深刻化し、特に若い女性の間では深刻です。LINEのグループ外しをされないために、女性たちはいろいろなキャラクターを演じ分けたり、常に気を配っていなければいけなかったりします。裏サイト、闇サイトなどでの誹謗中傷や監視行為は犯罪を誘発しやすいのですが、犯罪にならないと警察は動いてくれないので本当にキモチワルイ社会になってしまいました。

どうも日本社会はあまりにも裏コミュニケーションが多すぎる感じがします。「タバコ部屋コミュニティ」「麻雀仲間コミュニティ」「旅仲間」「釣り仲間」「飲み仲間」。中には健全なコミュニティもありますが、多くは非常にストレスフルです。コミュニティには長(おさ)がいて、序列があって、新人はさそわれても、コミュニティの序列や人間関係を理解しないと発言すら容易でない、というところもあります。

日本人の底流に、どす黒いドロドロしたものがあるようにも思われ、そういうものがデジタル社会になって解消されたかといえば新たな問題が増えつつあるだけに感じられます。そうした「当たり前のこと」すら知らない人、経験がない人に、そうしたものに触れてしまったがためにダークサイドに落ちている人を救うことができるのか、とても疑問があります。

いじめであれ、村八分であれ、何十年もPTSDであり続けた人を社会復帰させるのは容易な道ではありません。まずは、「治そう」とか「改善しよう」ではなく、その人を全部受け入れてみよう、がスタート地点です。私どもがニートや引きこもり、という言葉をあまり使いたくないのは、その言葉自体に、すごくマイナスのレッテルが張られているからなんです。まるで、引きこもりの人たちが私たちより魂の位が低いとか弱い人間であるかのように錯覚してしまいかねない、それが嫌なのです。

ましてマジックワードなど。思いあがってはいませんか? と、どうしても思ってしまいます。