はじめに念のためお断りしておきます。私どもは、いわゆる「ひきはがし屋」とはなんの関係も持っておりません。コンプライアンスを遵守する企業体を運営母体に持つまっとうな組織です。

企業母体は現代問題研究所で株式会社でありますので、利潤を上げることは基本ですが、現在のところ8050センターは非採算事業です。非採算だから何をやってもいい、とはまったく考えておりません。

現在のところ、適切な運営形態に近づいてきておりますし、利用者の支持もいただけていると感じております。(ただ忙しすぎます)。今回は「ひきはがし屋」について私どもが知るところをお話します。

こどもを捨てにくる親御さんたち

実際のところ、私どもにも「ひきはがしをやってくれないか」という依頼が来ることがあります。気持ちは痛いほど理解できるのですが、昭和30年代だったらいざ知らず、現代日本では、ひきはがし行為は完全に犯罪ですでありますし、物理的な危険性が予測不能であることからもご依頼を受けることはできません。

なにしろ強制連行、ときどき、強制労働、ですからねえ。一部の学校などではほぼ強制的にさまざまなことをさせられますし、また一部の精神科デイケアでは、本人があらかじめ同意していることを条件に「お迎え」「連れ去り」を行い、また矯正プログラムをさせます。

NPO法人のひきこもり支援センターの一部では、親からの依頼により「不法侵入」「強制面談」「強制連行」「強制労働」により矯正をし、成功を誇っているところも確かにございます。

戸塚ヨットスクールに子供を捨てにくる親もたくさんいました。そういうお子さんをひきこもりから脱出させた実績が多々あるのも事実ではあります。ただ、戸塚ヨットスクールに入ってよかった、という声はほとんどきかないのですね。

戸塚ヨットスクール的な手法を取ることはある意味、理にかなっているところもあり、「行動療法」としてセラピーの一環でしている場合があります。ただ戸塚宏氏の場合は「死にかける」体験を通して、「生きる力」をつけ「生きる自信」「自立」を目指しているので、通常の行動療法の範疇を超えています(それだけ効果的ではあります)。

しかし、昨日まで動けないでひきこもっていた人をいきなり水辺に連れて行ったり(いきなりではないにせよ)、工場で労働させたりして、事故が起きない保障もなく、責任の所在もありません。

もっとも無意味な労働をさせるのは懲罰にみなされるので、お金にはならないかもしれないけれども、確かに意義がある作業訓練をすることで社会順応訓練をする、という過程を必要だ、と考える組織もありますし、もっと娯楽的なことをしたほうが良い、と考える組織もあります。

強制連行というのはもちろん日本国憲法違反なのですが、日本の地域によっては、そういう「おじさん」がいて、本当に人さらいのように車に押し込んで、山の中のプレハブ小屋に住まわせたりします。

実際には昔の親たちもそういうことをよくやっていました。昭和時代は、街中でも一般人が血まみれでケンカしていることは、珍しくはなかったです。それが、未だに、一部の社会や一部の地域には残っているだけです。

抑圧を解き放てばひきこもりは解決する

私どもは、ひきこもりの原因を抑圧と考えているので、この抑圧状態を解き放たないことには、ひきこもりは解決しないと考えています。ですから抑圧状態をそのままに、どころか、さらに激しい抑圧を加えることで、状況が改善するとはとても考えられないのです。

人間は環境に順応しますし、もちろん根源的には死にたくはないわけですから、そうした強烈な抑圧に対して、従順に従ったり、言われるように行動したり、サーフボードにも乗れるかもしれません。しかし、元々の抑圧からのひきこもり状態だった心にフタをしているだけで、問題の解決にはなりません。「治った」ように見えて、あるときに「本音の自分」が姿を現すかもしれません。

非常に困ったことに、多くの場合、抑圧しているのは親です。親が多くは無意識のうちに抑圧しています。あるいは過去に大きな抑圧の傷を残しています。ただ、それは親が問いただすことでは状況を悪化させるのみです。まして親が「ひきはがし屋」に依頼して、さらなる抑圧を加える、となると・・・。

その場合、まったく解決できなくなってしまいますね。そうなる前に相談して欲しかった、としかいいようがありません。

多くの場合、とは書きましたが、しかしながらほとんどの場合、真性ひきこもりは、家が安全な場所であるからひきこもっているのです。もう「世間が怖い」「日光が怖い」という状態になっています。

ひきこもりは機械の故障?

ただ、親子でコミュニケーションがうまくとれない、DVが起きる、というような場合は、やはり第三者が入っていかないとどうしようもないのですね。子供が親にわかる言葉で言語化して「お願い」するのは、本当に無理なんです。100人が100人無理だと言います。

そして実際、誰かが間に入っても、無理なんです。たいていはここであきらめるか、あるいは、最初からこうした、手間のかかるめんどくさいカウンセリングによるヒアリングはしないのです。

ただ、「うちの子変なんだ、直してよ」と家電製品が故障したかのように言ってくる親御さんもいらっしゃって、正直戸惑います。まあ、昭和の会社でも「あいつは一発殴れば治るかな」と、アナログテレビの受信状態を修正するかのように言っていた人がいましたっけ。

いまどきのパソコンもそうですが、一発殴っただけで壊れてしまうお子さんはいくらでもいますが、叩いてみたり、部品交換で治ることはありません。強制労働でヒトを矯正することはできません。それは無理なんですね。心を治さないと。