専門家に頼らず、自分自身で自分自身のひきこもり問題を解決するには、「親を捨てる勇気」を持てるかどうか、です。「親を捨てる」というのは物理的に捨てられるのが一番良いのですが、経済的に自立できない場合はどうしてもまとわりついてしまうので、精神的に親を捨てるところからはじめなくてはいけません。

まず「親との過去の苦しい思い出」を捨てましょう。これはかなり大変なことです。親のせいで人生を狂わされてしまった、あるいは親のちょっとした一言により大変に傷ついたり、取り返しのつかない大きな決断をさせられたり、ということが子供には大なり小なりあるのです。

そして親や、まして自分を捨てた親を憎むのは当然のことです。ところが残念なことに多くの場合親の側は子供を傷つけたことや、子供への仕打ちを全く覚えていないか、たいしたことではないように考えています。そしてそれは修正できません。足を踏んでいる人は踏まれている人の痛みを知ることができないのです。

特にひきこもりの親世代というのは、自己中心的な人が多く、なんといっても「モンスターペアレンツ」という言葉を生み出したくらいで。このモンスターペアレンツは、今ではモンペ、と略されていますが、過保護の極致といえます。そして、過保護・過干渉こそ虐待に匹敵する、裏返しともいえる、子供に大きな傷と禍根を残すビヘイビアなのです。

親は「愛しているから」「子供のために」という言葉を免罪符として、教師や他の親などに精神的な暴行を加えるわけで、心理学的には、精神的な暴行は連鎖することとなり、別の形になって結局は自分の子供が傷つく可能性が高いのです(親子で全く傷つかない、とか親子でサイコパス、という例外もあります)。

昔は「愛こそすべて」と愛のためには何をやっても許される、という変な価値観が流行したことがあります。それはロックンロールであり、映画「卒業」であり、あるいはロミオとジュリエットであり、ウエストサイド物語であり。その物語に酔いしれた世代の人たちがショーケン世代であったり内田裕也世代であったりしたのです。

小倉智明氏なども、実際に直接話を聞いてみるならば、かなり誠実な面もあり、人懐っこい面もありますが、ちょっと恥をかかされる、メンツをつぶされる、となると一気に沸点に達してしまうこの世代特有の危なっかしさがあります。それは何をどうやってもあの世代の人たちの苦労と成功を私たちは追体験することができないから手がつけられないのです。

ひきこもりの親たちは、テレビという娯楽の虜になってしまっていて、今でもなおテレビや新聞や雑誌という古いメディアの情報の刷り込みに対してあまりにも無抵抗です。子どもたちは親のアクセサリーであり、ペットです。ですからアイデンティティを持たれては都合が悪いのです。そして子育てに見事に失敗します。

子育てに失敗した結果として子供がひきこもりになっているわけですが、そのことが恥ずかしい、という意識がありますから、調査票をいくら配っても「うちの子供は、家事手伝いであり、断じて引きこもりではない」と虚勢を張ったり、「パートタイムとはいえ働いている立派な息子だ」とかばったりします。しかし、真に子供の将来を考えているのではなく、あくまで自分自身を取り繕うための偽善でしかないのです。

そのことをひきこもりのお子様は薄々理解しているのですが、経済的な支援がないと生きることができないと思い込んでいるために身動きがとれなくなってしまっている。その上、ひきこもってから年月が経っていると、「自分が考えている自分の姿・能力」と「現実の自分の姿・能力」がかけ離れているため、なおさら身動きがままならない、という状態になります。

カウンセリングというのは、力量があるカウンセラーが行うことにより、自分の本当の姿を自分で見ることができる、というメリットがあります。自分が何者であるか、他者と比べて本当のところ、どのあたりが劣っていて、どのあたりに長所があるのかというのは、一人で考え込んでいたり、インターネットをいくら見てもなかなかみえてくるものではありません。

まず、親との思い出、関係性を断ち切る。親の常識を捨てる。親の命令は聞き流す。その上で、自分の姿を他者に映して再確認し、他者との交流により自らを取り戻す、あるいはアイデンティティを確立させ、コミュニケーション能力を身につけ、ハローワークが主催するような就職支援セミナーなどに出席を始め、そこでもできるだけ年下の人と友達になることがとても重要です。

両親とコミュニケーションができていると年上の人とはつきあいやすいのかもしれませんが、現在、職につくためには若い人と話ができるようでないといけません。20代のひきこもりの人は年上を見ていればいいのですが、ひきこもり歴が長く、40代、50代、60代となると、同じ世代以上の人と話をしても愚痴を言い合うことしかできず、意識が外に向いていかないのですね。

親を捨てる、というのは本当に勇気がいります。でも、親が身動きできているうちに親を捨てないと、親と一緒に死ぬ道しか残されなくなってしまいます。残念ながら老いている親というのは客観的にみると汚くてキモチワルイ存在だったりします。年を取ると匂いや汚れに無頓着になったり目が見えなくなってしまったりします。それと同じような服装をしていると若い人たちの仲間に入ることが難しくなります。

親を捨てるのは本当に簡単なことではありません。ただ、親が子供を捨ててくれない以上、それしか選択肢がないのです。ひきこもりの足をひっぱってひきこもりを継続させている責任の半分以上は親にあるのですから、親から気持ちだけでも離れるようにしてください。お子様が自分の人生を考えるようになって、はじめて関係者が皆我にかえることができるのです。