日本にあまたある神話に「お医者様は頭がいい」「裁判官は公平だ」「日本の技術は高い」「日本人は真面目だ」「日本人は勤勉だ」「日本は弱者に優しい」「日本は自由主義国だ」「日本は資本主義国だ」「高額なもの、難しいものを売っている人はその中身を知り尽くしている」「いいものを作れば売れる」「日本の消費者は賢い」「活字は信用できる」「インターネットは信用できない」「裁判では悪い人が裁かれる」「裁判で勝てば大金がもらえる」「正直者は最終的に得をする」などなど。

残念ながらほとんどの神話や伝説は嘘です。そういうことは起きるかもしれないがきわめてまれ、ということがほとんどです。たとえば、ごくやさしい手工芸のようなものであるとか、単純作業に見えるようなモノづくりにしても、職人さんに伺うと、30年やってきたけれどもまだまだ奥が深い。完璧というところまで到達できない、と言います。そして、そういう人たちは自分なりのやり方を身に着けていますし素早いのですが、材料の仕入れまでこだわることはなかなかできないでいたりします。

まして、原発や航空機といった複雑なものはどうでしょうか? 実際のところ飛行機が空を飛ぶ理由はいまだによくわかっていないのだそうです。空力が、とか物理学でいろいろな説明をしていますが、ほとんどは後付けの理論です。ウィングレットという飛行機の羽の先を直角に上向きに立てることで騒音が少なくなったり燃費がよくなったり、ということがあったりしますが、ひょっとすると今のような羽の形は効率が悪いのかもしれません。

たまたまうまくいっている、その範囲だけを知っていて、それを守るようにしている、というのが現代の科学のようなもので、すべてを知り尽くしているわけではないのですね。特に売っている販売の人などは、作っている工場の現場を見たわけでもなく、企画書を見たわけでもなく、とにかく売ることでご飯が食べられるので、なんでもいいから売ればよいと。そのため脳内妄想でいろんなこと考えて売りつけるのが良い営業、という時代もありました。

ずいぶん騙されたものです。未だに騙されている人もいます。それがファッションでカッコイイ、といって、ズボンを下ろしてお尻を見せながら歩いている人とか本当にかわいそうになります。私は股下が90センチありますが、そういう人はもともと70センチもないでしょう。日本人の典型的な体型は短足なのです。それをさらに短く見せるとなると、どうやってもかっこいいはずがありません。

あのズボンのはき方はもともと刑務所から発祥しているのです。刑務所はオーダーメードで服があるわけではなく、長身で痩せている人には3Lとか4Lの服があてがわれ、だぶだぶになってしまうのですが、刑務所では自殺を止めるためにベルトを禁止したのです。そのため、ズボンがずり下がったまま歩かないといけない、そういうみっともない姿だったのですね。ガングロブームにせよハロウィンにせよ、個性を出したいのか、みんなと一緒に動かないと不安なのか、心理がよくわかりません。

そういう神話の中に「訴えてやる」という謎な殺し文句があります。弁護士がぞろぞろテレビに出てくるということは、世の中のほとんどの人は悲しい裁判体験がない、平和なんだと思い知らされます。その一方、ほとんどの弁護士が「食えない」というのもわかります。ほとんどの裁判において、原告が満足のいく勝訴を勝ち取れることはほとんどありません。裁判はやったもん負けです。勝つのは一部の悪徳弁護士だけです。

ことに、8050問題にかかわる、労働紛争、つまり、不当なリストラや不当労働行為の裁判はかなり悲惨です。過労死していれば別ですが、1億円の損害賠償を訴えて200万から300万、一番よくて500万円勝訴すれば御の字ということになります。そして、500万手残りがあるわけではありません。裁判は2年くらいかかり、相手が上告すると永遠のような時間がかかります。弁護士への依頼費用は30-50万円、そして、成功報酬は最低4割です。さらに通信費や和解のために動いたら別途費用が生じる場合があります。一度依頼してしまうと青天井に近くなります。

500万円勝訴したとしても、弁護士費用が300万円くらいかかってしまったりするのです。200万円、300万円の勝訴では手残りは本当に少ないです。そして莫大な時間が無駄になります。一番悪いのは嫌な思い出を何十回と思い出すことを要求されることです。一回侮辱されるだけでも辛いのに何十回と侮辱されるのです。しかも日本の裁判制度は穴だらけなのです。ですから裁判を起こしたとしても早めに和解した方がいいのですね。

たとえば中小企業を相手取って、2000万円の賠償金を勝ち取ったとしましょう。ありえないんですが。しかし、その時相手が支払いを拒否したら、支払えないと言った場合には、踏み倒すことも制度上は可能なんですね。裁判員裁判の場合、裁判員は法廷に来る義務が生じますが、被告は裁判に臨席しなくてもいいのです。もちろん著しく不利になりますが、被告が個人事業主だった場合などは、業務に支障が出るので(そのことが原告の訴える狙いだったとしても)裁判に来ないことで罰則があるわけでもなんでもないのですね。来て何か不届きな発言をした場合は法廷侮辱罪とかになるのでしょうが、そういうのもないのです。

従って相手が確信犯だった場合には裁判と言うのは全く有効な手段ではないのですね。ただ、最近は特定社会保険労務士という資格があって、この人たちは労働相談とかにも乗っているのですが、裁判を起こすのではなく、会社と和解するための紛争解決を行うことができるのですね。裁判より時間がかからなくて人によっては有効なので、頼ってみるのもいいかもしれません。裁判の場合は、裁判官が労働問題に詳しくない場合があるので、変な判決も出てしまうから注意が必要なのです。