最近の傾向として50代には定年後、死ぬまで暮らす家を買う人が増えていて、70以上だと、老人ホームや介護施設を探す人が増えています。なんでみなさん、こんな時期に危険な不動産投資をやりたがるのか、とても疑問です。つまり、自分が住むところは投資ではないと思っているんでしょうね。大きな間違いです。不動産は買うモノではなく借りるものです。特に現状の法律では、借りる側が圧倒的に有利ですから。そして老人ホームや介護施設は借地借家法と違う形態であり、極めて危険です。ところが、うまい話に飛びついてしまうのが哀れな年寄りです。

入所するのに数百万から数千万円かかるけど、月額3万円で一生面倒見てくれる、なんて設備、あるわけないじゃないですか。そんなの、30年家賃一括保証と何が違うんですか? 30年以上前からあるこのビジネスで得をした人がいましたか? いないんですよ。みんな嘘なんです。その場限りの。彼らの狙いは最初に払う数百万円から数千万円です。昔もそういうビジネスモデルがたくさんありました。ゴルフ場とかスポーツクラブです。信じられますか? スポーツクラブの入会金100万円が必要だったんですよ。当時御三家、と言われたスポーツクラブが都内の一等地にあって、天井が開閉式になっているプールとかあったんですね。

100万円の他に供託金を取るところもありました。ゴルフ場も名門ゴルフ場の会員券とかは数百万円で取引されていたんですね。結局、ゴルフ場は倒産するわ、スポーツクラブは民事再生を受けて、供託金は雀の涙しか戻ってこないわ、という状態になりました。最初の10年間くらいはステイタスがあったんですよ。でも30年、40年ということになると、市場環境が変化しますし、人間の価値観も変わりますし、何より、40年同じポジションで仕事をする人がほとんどいないわけです。したがって、今、あるいはこの10年ぐらいどんなに素晴らしい経営をしている老人ホームがあったとしても、この先10年後はもうわからない。20年後など見当もつかない。

一般的な話で言えば、8割以上の会社は3年以内に解散する。会社の10年生存率は極めて低い、というのが日本の状況です。老人ホームのような病院にしばらく入院していたことがありますが、当時は今のように入院患者は1週間でベッドを開けろ、という時代ではなく、塩漬けにされている患者さんが多い時代だったので、その病棟では、どの医者や看護師よりも古くからいる患者、というのがいて、毎日昼過ぎに食堂で古株の患者が集まって、新しい医者の評判などを井戸端会議していたのです。そうなるとスタッフもすごくやりにくかったろうと思います。「前はこういうやりかただった」「前の先生はこんなによくしてくれた」と患者から叱られるお医者様という構造になってしまうのですね。

学校にせよ寮にせよ会社にせよ、日本は利用者の自主性に任せる、という意識とか、自治するために自己規制するとかいう考え方がなく、そこがすべてにおいて問題になるのですが、常に強いモノが弱いモノを管理する、弱いものは甘える代わりに強いことを言えない。という関係性が「普通の状態」になってしまっています。結果として、マルトリートメントの温床があちらこちらにあります。老人ホームも病院も閉鎖社会ですから、虐待などが日常茶飯事であっても外からは見ることができません。学校のイジメが何十年となくならない国ですから、すべて団体行動をさせる施設では個性は殺される運命にあります。

おおよそ、何千万円も払っても、お客様扱いされるのはせいぜい最初の10年程度でしょう。そのうち担当者が変わり、経営母体が変わり、ということになると、「私は聞いてないよ」という無責任な人だらけになり、殺伐とした空気になっていくでしょう。そして、月額費用などもどんどん値上げしていかざるを得なくなります。あるいは15年30年という建築物の大規模修繕のタイミングで、巨額の費用が必要になり、それを入居者に要求するようなことが必ず起きます。先払いして、その先の保証をしてもらう、というビジネスモデルは昔から時間をかけた詐欺として有名なのです。

1000室ぐらいあって、毎日誰か死ぬような施設であれば、じゃんじゃんお金が入ってきて経営的には安定するのでいいでしょう。しかし、入居する人は最低10年から40年ぐらい面倒を見てもらおうという人ばかりで、数十人しかいない、という施設では経営的に非常にい心もとない状態です。自分で計算してみればわかる話なのです。金のなる木とか、空気中の酸素をお金に変えるような機械でもない限りは、最初から倒産が約束されている商売に見えます。老人ホームは不動産投資です。しかも、売買できない投資であって、非常に不利です。世の中が自己責任社会に変わっていることに気づいていない人が騙されます。注意してくださいね。