この年末年始は断捨離が大ブームだったようです。多くの人がぎっくり腰になりました。「断捨離」というのは、当面必要ではない物を片っ端から捨ててしまうことをいい、さも良い事であるかのように賛美が行われていますが、一種のイデオロギーであって私どもは必ずしも良い事ととらえていません。

確かに、高齢者の家を訪ねるとゴミ屋敷になっていることが少なくありません。近所からゴミを拾ってくる人もいます。これはこれで問題です。だからといって何でもかんでも捨てればいいというものでもありません。

40歳以下の人が突然断捨離のようなことを始めたら危険信号です。生きる意欲に問題が出てきたかもしれないので。

いきなりの断捨離というのは精神的にも負担が大きいので段階的に行って行くのがよいでしょう。まず物の種別ごとに大きなゴミ袋に入れ、トリアージし、当座必要がないものは倉庫とかレンタルコンテナとかに移動する。すぐには捨てない。しかし半年一年、隔離した物を使わない場合には本格的に捨てる、というようなやり方ですね。

他人から見ると、年の離れた趣味の違う人が持っている物は全部ゴミですから、それをいきなり奪ってしまうと、子供ならまだしも、大人だとリカバリーがききません。あれは命にかえがたい大事な物であった、と言われてしまうと、本当の他人以外はどうしようもない十字架を背負わされることになります。

けっこう辛いのが、最近は無駄な分別をしないと物が捨てられないところにあります。分別しても実際にはリサイクルできなくてまとめて燃やす方が安いし環境にもいいのですが、無駄に分別している間に、捨てられなくなってしまうことがよくあります。

ただ、断捨離もブームですから。その人のコレクションは、できれば亡くなるまではそっとしてあげる、というのが優しさではあります。

映画のビデオテープや音楽のレコードやCDなんか、ダウンロードの時代にはいらないだろう、と思っていると、実は、特別な価値がある、なんてことはよくあることです。

断捨離をするとかしないとかいうのはその人の生き方の根本に関わってくる問題なので、物を少なくすると気持ちよく生きられる、というのは、断食をすると宿弁が取れてスッキリする、というのと同じような宗教になってしまっている感じがします。

もっと困ったことには、今は若者達もどんどん物を買わなくなってきて「いらない物は買わない」ではなく「いらなくなるものも買わない」になってきてしまっているため、経済が回らなくなってしまうのではないかとても不安です。

また究極的に断捨離をしてしまうと、生きていること自体が無駄、という誤った結論に行き着いてしまう怖さもあります。何か一つの価値観だけが正しいということはありませんから、断捨離というブームは再考されるべきだと思うのです。